遺族対応で誤解を招く一言
葬儀の現場では、スタッフの何気ない一言が遺族の心を支えもすれば、傷つけてしまうこともあります。
「そんなつもりじゃなかったのに…」
「良かれと思って言ったのに、逆効果だった…」
実際に現場では、このような“意図しないすれ違い”が起こることがあります。
深い悲しみや混乱の中にいる遺族にとって、普段なら気にならない表現が、心に重く響いてしまうことがあるからです。
だからこそ葬儀スタッフには、
「自分の意図」と「相手の受け止め方」の差を小さくすること
が求められます。
本稿では、現場で実際に起きた“誤解を招いた一言”を取り上げながら、どのように言い換えれば相手の心に優しく届くのかを解説します。
目次
1.「お気を確かに」は本当に気づかいか?
誤解を招いた一言
「お気を確かに、お過ごしください」
遺族の反応
・「悲しんじゃいけないの?と言われた気がした」
・「冷たく感じた」
背景
丁寧語ではあるものの、相手の“心の状態を正そうとする”ニュアンスが含まれ、結果として上から目線に感じられることがあります。
より適切な言い回し
「おつらい中、本当に大変だと思います。何かお力になれることがあればおっしゃってくださいね」
→ 気持ちを否定せず、“寄り添う姿勢”を伝えることがポイント。
2.「ご愁傷様です」だけでは形式的に響く
誤解を招いた一言
「ご愁傷様です(だけ)」
遺族の反応
・「流れ作業みたい」
・「心がこもってないように感じた」
背景
決して間違った言葉ではありませんが、無表情で言うと“定型句として処理された”印象を与えやすい言葉です。
より適切な言い回し
「心よりお悔やみ申し上げます。突然のことで、さぞおつらいことと存じます」
→ 声のトーン・表情など、言葉以外の情報も“想い”を伝える要素に。
3.「お若いのに」は配慮のつもりが逆効果に
誤解を招いた一言
「こんなにお若いのに…お気の毒です」
遺族の反応
・「改めて“若くして亡くなった事実”を突きつけられてつらい」
・「わざわざ言わないでほしい」
背景
年齢に触れることで、“まだ受け止めきれない感情”を刺激してしまうことがあります。
より適切な言い回し
「本当に突然のことで、言葉が見つかりません」
→ 敢えて語り過ぎない方が、気持ちが伝わる場合もあります。
4.「気を落とさずに」は、悲しむ自由を奪ってしまう
誤解を招いた一言
「気を落とさずに、頑張ってくださいね」
遺族の反応
・「頑張らなきゃいけないの?」
・「悲しむことを否定された気がした」
背景
励ましのつもりでも、“悲しんではいけない”という指示のように聞こえることがあります。
より適切な言い回し
「どうか、無理だけはなさらないでくださいね」
→ 遺族が今の気持ちのままでいて良いことを伝える言葉が救いになる。
5.「気をつけてお帰りください」も、言い方で印象が変わる
誤解を招いた一言
「はい、それではお気をつけてお帰りください」(無表情で機械的に)
遺族の反応
・「早く帰れと言われたみたい」
・「儀式を“処理”された感じがした」
背景
言葉自体に問題はないものの、“空気”と“声の温度”が伴わないと冷たく聞こえてしまうことがあります。
より適切な言い回し
「本日はお疲れさまでした。まだ寒いですので、どうかあたたかくしてお帰りくださいね」
→ 相手の体調や天候に触れた具体的な言葉は、優しさが伝わりやすい。
言葉選びの基本は「共感」と「間」
葬儀現場のコミュニケーションには、絶対の正解がありません。
大切なのは、
- 共感を示してから言葉にすること
- 沈黙も“寄り添い”として受け止めること
- 相手の呼吸や表情に合わせ、「間」を大切にすること
言葉そのものより、姿勢が遺族の心を癒します。
最後に:言葉には“想い”が宿るからこそ
葬儀に携わる者にとって、言葉は単なる業務ではなく、
祈りに近い行為です。
たった一言が、遺族にとって一生残る温かい記憶になることもあれば、
反対に“二次的な傷”になってしまうこともあります。
だからこそ私たちは、
相手に届けたい想いが、正しく伝わるように、
言葉・声・表情を丁寧に整え続ける必要があるのです。
“ことば”は、見えない手紙。
やさしく、丁寧に、相手の心に届く形で綴っていきたいものです。


