「その一瞬」が信頼を揺るがす──葬儀社におけるヒヤリ・ハットの傾向と対策
葬儀の現場は、静かで厳粛であると同時に、非常に繊細で緊張感の高い仕事です。
「一生に一度の儀式だからこそ、絶対に失敗はできない」。
そう考えて業務にあたっていても、現場では思わぬ“ヒヤリ”や“ハッと”する瞬間が訪れることがあります。
それが、重大な事故の前触れとなる 「ヒヤリ・ハット」 です。
大きなトラブルに発展しなかったとしても、「もしそのままだったら…」という小さな異変こそ、葬儀社の信頼を守る重要なサイン。
今回は、葬儀現場で起こりやすいヒヤリ・ハットの傾向と、明日からできる対策をまとめました。
目次
■ ヒヤリ・ハットとは?
ヒヤリ・ハットとは、業務中にヒヤッとしたり、ハッと気づいたりした「事故寸前」の事例のこと。
厚生労働省が示す ハインリッヒの法則(1:29:300) では、重大事故の背景には、29の軽微な事故、そして300のヒヤリ・ハットが存在するとされています。
つまり、
小さな違和感の積み重ねこそが、大事故を未然に防ぐ最大の防波堤
ということです。
■ 葬儀現場で多いヒヤリ・ハット事例と対策
① 名前・戒名・遺影の間違い
- 祭壇の名前が旧字体のままだった
- 司会が故人名を読み間違えた
- 戒名の位号を誤って案内してしまった
→ 尊厳に直結するため、小さなミスでも強い不信感につながりやすい。
対策
- ダブルチェックの徹底
- 出力物は音読・指差し確認
- 漢字変換の誤りにも注意
② 遺体搬送時の確認漏れ
- 搬送先の病院名を取り違えそうになった
- 担架サイズが合わず乗降に時間がかかった
- 貴重品の確認が抜けたまま搬送されるところだった
→ 情報伝達ミスや焦りで事故リスクが上がる工程。
対策
- 搬送チェックリストの運用
- 2人以上で声出し確認
- ナビのルート事前確認
③ 火葬場との時間調整ミス
- 出棺が遅れ、火葬時間ギリギリに到着
- 会葬者乗車の遅れで全体が押してしまう
- 火葬場側の人員と連絡が取れていなかった
→ 火葬場は時間厳守。遅延は後続の式にも影響する重大ポイント。
対策
- 逆算スケジュールでの事前シミュレーション
- 「10分前行動」の徹底
- タイムキーパーの役割明確化
④ お供物・供花の手配違い
- 種類の間違い・誤送付
- 並べ順の伝達不足
- 故人宅と会場を取り違え
→ 宗派や地域によって意味も変わるため、特にクレームになりやすい領域。
対策
- 注文書の二重確認
- 指示書のメール・FAX化
- 配列図を写真で共有
⑤ 接遇・所作に関するうっかりミス
- 焼香作法を誤って案内
- 喪主への敬称漏れ
- 式中にスマートフォンが鳴ってしまった
→ 些細なことでも感情面の不満として残りやすい。
対策
- 接遇研修の定期実施
- “気づきシート”で日常の改善点を蓄積
- ベテランスタッフによる同行指導
■ ヒヤリ・ハットを「見える化」する文化づくり
ヒヤリ・ハットの防止は、
「ミスを責める文化」ではなく、「気づきを共有する文化」
を育てることから始まります。
すぐにできる取り組みは以下のとおりです。
- 朝礼・終礼で気づきを1件共有
- スタッフ全員が「ヒヤリ・ハット報告シート」を提出
- 月1回の振り返り会で全員の事例を可視化
- 改善提案を表彰する制度を導入
これにより、“現場の属人的な感覚”が組織全体の知識資産に変わります。
■ ヒヤリ・ハットは「品質向上の原石」
葬儀社の仕事は、ミスなく進んで当たり前と思われがち。
その裏には膨大な確認作業と、スタッフの緊張感があります。
ヒヤリ・ハットは、その緊張感の中で得られた、小さな成長のきっかけです。
それを共有し、再発を防ぐ取り組みを続けることで、葬儀社としての“品質”は確実に磨かれていきます。
■ まとめ:小さなヒヤリが、大きな信頼をつくる
「今回は大丈夫だったから」
「これくらいなら問題ないはず」
そんな“慣れ”は、いつか大きな事故につながります。
逆に、
「ヒヤリとした一瞬」を共有できる組織は、事故を防ぎ、信頼を積み重ねる葬儀社
です。
葬儀は、ご遺族の心に寄り添い、信頼を形にする仕事。
だからこそ、葬儀社には 「未然に気づく力」 が求められています。


