いのちの終わりを、地球にやさしく。──エコ葬という新しいおくりかた

私たちは、人生の終わり方について考えるとき、自分らしさや家族への想いだけでなく、「地球へのやさしさ」を意識するようになってきています。そんな時代背景の中で注目を集めているのが、「エコ葬(サステナブル葬儀)」です。
自然と共生しながら、静かに、そして環境に負荷をかけずに旅立つ。それは、故人の生き方そのものを映し出す、やさしい葬送の形です。
目次
■ エコ葬とは?その基本的な考え方
エコ葬とは、従来の葬儀にかかる環境負荷を最小限に抑え、持続可能性を重視した葬儀のスタイルです。
具体的には、以下のような特徴を持つ葬儀のことを指します。
- 自然分解する棺・骨壷の使用(竹、段ボール、土器など)
- 化学薬品(防腐剤・遺体保存処置など)の不使用
- 火葬時の二酸化炭素排出を減らす取り組み
- 森林保全型の埋葬地(樹木葬など)を選ぶ
- 通夜・葬儀をコンパクト化して資源消費を抑える
- 香典返しや会葬品をエコ商品にする
- 花の使用を控えたり地元産の花にする
これらは一つひとつが小さな工夫かもしれません。けれども、それらの積み重ねが、故人の“生き方の美学”を後世に伝える、大きな意味を持つのです。
■ なぜ今、エコ葬が求められているのか?
ここ数年、「エコロジー」や「サステナブル」という言葉は、ビジネスやファッションだけでなく、人生の節目にも浸透してきました。
葬儀もまた、地球環境に大きな影響を与える営みであるということが、少しずつ認識されてきています。
たとえば、火葬には1回あたり約20〜50kgのCO₂が排出されるとされ、骨壷や棺の多くは化学塗料や金属が使われています。加えて、仏花や供物の廃棄物、通夜料理の食品ロス、送迎車両の排気ガスなど、多くの見えない「環境負荷」が存在しています。
エコ葬は、こうした“葬儀の見直し”を通じて、次の世代への責任を果たすアプローチでもあるのです。
■ 日本でも始まっている、エコ葬の具体例
日本国内でも、少しずつではありますが、エコ葬を選ぶ人が増えてきています。
◉ 段ボール製のエコ棺
再生紙や未晒し素材を使った棺。焼却時の有害物質が出にくく、軽量で扱いやすい。価格も比較的リーズナブル。
◉ 樹木葬・里山型墓地
墓石ではなく、木を墓標とするスタイル。森林整備と一体化しており、里山再生と供養を同時に実現する「循環型の死後のあり方」として注目されています。
◉ 自然分解型の骨壷
土に還る陶器や布、紙製の骨壷を使うことで、最終的には自然の中に溶け込みます。海外では水に溶ける骨壷を用いた「海洋散骨」も一般的になってきました。
◉ カーボンオフセット葬
火葬で排出されるCO₂を、植樹活動や自然保護団体への寄付によって相殺する取り組みも登場しています。
■ エコ葬を選ぶ人の価値観とは
エコ葬を希望する人々には、共通する傾向があります。
- 自然が好きだった人、生前に自然保護活動に関わっていた人
- 宗教や形式にとらわれず、自由でシンプルな生き方を好んだ人
- 家族や社会に負担をかけたくないと考える“終活意識”の高い人
- ミニマリズムや“持たない暮らし”を実践していた人
つまり、エコ葬は単なる流行ではなく、**その人の「生き方の延長線上にある選択肢」**なのです。
■ エコ葬の課題と向き合い方
もちろん、エコ葬には課題もあります。
- まだまだ対応している葬儀社が少ない
- 高齢世代からの理解が得にくいこともある
- 火葬炉や施設の基準がエコ対応に追いついていない場合がある
- 「ちゃんと送ってあげたい」という遺族の気持ちとのギャップ
しかし近年は、SDGsや脱炭素社会の推進とともに、行政や地域もエコ葬を含めた“持続可能な弔い”のあり方を模索し始めています。大切なのは、「豪華にしない=手抜き」ではなく、「心を込めたエコで、もっと深く送る」という価値観への転換です。
■ 最後に:生き方と同じように、旅立ち方も選べる時代へ
人は皆、いずれこの世を旅立ちます。そのとき、ただ形式に従うのではなく、**「自分がどう旅立ちたいか」**を考えることは、残された人々への贈り物にもなります。
エコ葬は、モノを減らし、負担を減らし、それでも「想い」は減らさない──そんな、やさしく美しいお別れのかたち。
地球の未来と、自分自身の最後のあり方。このふたつを一緒に考えるエコ葬という選択肢は、まさに「これからの時代の葬儀」なのかもしれません。