葬儀社経営コラム第129号
地域との関係をつなぐ

葬儀社の事業承継で本当に大切にすべきこと
少子高齢化が進む中、多くの中小企業が直面しているのが「事業承継」の課題です。これは葬儀業界も例外ではありません。経営者の高齢化、後継者不足、将来への不安——。こうした声は全国の葬儀社からも聞こえてきます。
しかし、葬儀業という仕事には、他業種にはない“地域との深い関係性”が存在します。単なる経営の引き継ぎではなく、地域の人々とのつながりをいかに継承するかこそが、事業承継の成功を左右するカギとなります。
地域とともに歩んできた葬儀社の役割
葬儀社は、単なるサービス提供者ではありません。地域の人々の「人生の最終章」に寄り添い、儀式を通じて心の区切りを支える——そんな社会的・文化的な役割を担っています。
地域の人たちから「〇〇さんにお願いすれば安心」と思っていただける信頼関係は、長年の努力と関係構築の積み重ねによるものです。だからこそ、目に見える設備やノウハウだけでなく、「見えない関係性」の継承が重要になります。
地域との関係を引き継ぐ難しさ
では、なぜ地域との関係性を引き継ぐことが難しいのでしょうか?主な理由は以下の3つです。
① 非言語的な人間関係
地域とのつながりは、日常の挨拶や会話、気配りなど、形式に現れにくい関係性です。そのため、後継者に「“見えづらく教え」「づらい資産となってしまいます。
② 関係性の属人化
檀那寺や自治会、医療機関などとの関係は、現経営者の人柄によって成り立っていることが多く、後継者が同じように受け継げるとは限りません。
③ “つながり”の価値が伝わりにくい
経営感覚を重視する若い世代にとって、地域との関係性の重要性はすぐに実感しづらい面も。だからこそ、経験を通じた理解と時間が必要です
地域との関係を引き継ぐための3つのアプローチ
こうした難しさを乗り越えるためには、意識的に関係性を引き継ぐ「仕組み」と「共有の時間」が必要です。
① キーパーソンと会う機会をつくる
寺院、自治会、病院関係者など、地域のキーパーソンとの面会を、現経営者が橋渡しする形で設けましょう。単なる名刺交換ではなく、“紹介”を通じた信頼の構築がポイントです。
② 地域行事に積極的に参加する
夏祭りや清掃活動、セミナーなど、地域との接点を持てる活動への参加は、自然な関係づくりに役立ちます。まずは顔を覚えてもらうところから始めましょう。
③ 暗黙知を形式化する
「〇〇寺のご住職はこの流れを好む」「△△地区ではこうした配慮が必要」など、経験に基づいた地域対応のノウハウをメモやハンドブックにまとめると、次世代が参考にしやすくなります。
“引き継ぐ”から“育てる”へ
関係性を引き継ぐことは、ゴールではありません。後継者が自ら地域に入り込み、新しい関係性を築いていく“育てる視点”も重要です。
たとえば、終活セミナーを開催したり、オンライン相談を導入したりと、時代に合った地域との接点をつくることは、関係の継続・発展につながります。
まとめ:見えない価値を次代へ
葬儀社にとっての事業承継は、経営だけではなく「信頼の継承」です。長年培ってきた“地域とのつながり”を、いかに丁寧に受け渡すか。それが、葬儀社としての価値と存在意義を次世代につなぐための道です。
すぐに形になるものではありませんが、日々の行動と言葉の積み重ねが、地域に根ざした葬儀社の未来をつくっていきます。