2026年以降の葬儀業界ビジョン

2026年、葬儀業界は「再構築の時代」を迎えます。従来の「やり方を少し変える」「改善する」という姿勢では、激化する競争を乗り切ることはできません。私たちは今、「変化対応」から「構造転換」へと思考を切り替え、ビジネスモデル自体を根本から作り直す必要に迫られています。この構造転換の先に目指すべきは、「人 × デジタル × 地域共生」を軸とした「終身サポート産業」への進化です。本記事では、業界が直面する三つの危機を分析し、将来的に「人生を支える産業」となるためのビジョンを提示します。

1. 「変化対応」ではなく「構造転換」が必要な理由

これまでの時代、経営戦略は既存の事業を少しずつ改善する「変化」をベースに進められてきました。しかし、市場の競争軸そのものが変わってしまった今、過去の成功パターンを延長したところに未来はありません。構造転換とは、まるで通貨が普及していない地域に最初から電子マネーが導入され、それが王道となるように、旧来のシステムを前提とせず、新しいモデルを一気に導入することを意味します。

葬儀業界においても、大手チェーンが標準化・生産性向上を武器に出店を加速させている現在、地域密着型の企業も根本的なビジネスモデルの転換、すなわち構造転換を急ぐ必要があります。

2. 業界が直面する「三つの危機」(競争激化、人手不足、単価下落)

現在、葬儀業界には以下の三つの大きな危機が顕在化し始めています。これらの危機は、互いに影響し合いながら、企業の利益率を低下させています。

危機① 競争激化:市場規模は横ばいなのにプレイヤーが増加

矢野経済研究所のデータによると、返礼品や飲食等すべてを含む葬祭ビジネスのマーケット規模は、2013年の約1兆7681億円に対し、多死社会を迎え死亡者数が増えるにもかかわらず、2030年予測で約1兆7684億円と、ほぼ横ばいで推移する見込みです。市場が伸びないにもかかわらず、新規出店は止まらず、2024年の新規出店ホール数は476ホールと過去最多を記録しています。特にコンビニサイズの小型化ホールが主流となっており、総ホール数も11,507ホールで過去最多です。その結果、競争激化に対応できない企業の倒産件数も過去最高に増加しています。

危機② 深刻な人手不足:有効求人倍率7.59倍

人手不足は業界全体に及び、労働力人口(15歳から64歳)は2023年の7386万人から2040年には6213万人に減少する予測です。特に若い世代の確保は厳しく、18歳人口は2040年には62万人まで減少します。葬儀師・火葬係の有効求人倍率は、全産業平均(約1.35倍)をはるかに上回る7.59倍(令和6年12月)と非常に高い水準にあります。これは、応募者一人に対して7社以上が「うちに来てほしい」と応募している状況を意味し、企業は「選ばれる側」になるための抜本的な省力化・効率化、および労働環境の整備が急務です。

危機③ 単価下落に伴う利益率低下:簡易化の波

葬儀の平均価格は、2015年の約184万円から下落し、2024年時点でも約118.5万円と、コロナ以前の水準に戻っていません。これは、葬儀形式の簡素化が背景にあり、2015年から2024年にかけて一日葬の割合は1.6倍に、直葬・火葬式は2.0倍に増加しています。人間の心理として簡易的で楽な方に流れる傾向は間違いなく、今後もこの流れは拡大するでしょう。特に直葬・火葬式の比率が増加することは、一件あたりの平均単価を極端に押し下げるため、利益率の低下を招く最大の懸念点です。

3. 危機の裏側で進行する市場構造の変化

葬儀業界の市場構造は、単に「葬儀」という点だけではなく、「生前」と「死後」の領域において劇的に変化しています。

一つは、「リアルな終活」の本格化です。2025年に団塊の世代が全て75歳以上となり、核家族化・単身世帯の増加(2050年には5世帯に1世帯が高齢者単身世帯)も相まって、自ら費用をかけて準備をする終活の時代が始まります。これは、15年ほど前のエンディングノートブームのように「話を聞くだけ」で終わるブームではなく、生前の売上を確保する巨大なビジネスチャンスとなります。

もう一つは、アフター領域の拡大です。相続、不動産、保険、金融系商品など、葬儀後に発生する諸問題の解決をサポートする領域はさらに広がりを見せています。地域で信頼を築いてきた葬儀社が、この領域で「最後の最後まで面倒を見る」という役割を担うことは、顧客の信頼を確固たるものにする重要な機会です。

まとめ:2026年以降に目指すべき「終身サポート産業」のビジョン

これらの危機と機会を踏まえ、葬儀社が目指すべきビジョンは、「終身サポート産業」への転換です。これは、葬儀という「点」のサービス提供者から、顧客の生前相談から葬儀、法要、相続、不動産までを「線」で支える、人生を支える産業へと自己規定を広げることを意味します。

このビジョンを達成するためには、以下の三つの要素が不可欠です。

1. : 採用難に対応するため、働き方改革と効率化(仕組み化・標準化)により、人材の定着と育成を強化します。

2. デジタル: 経済産業省が目標とする労働生産性24%UPを達成するため、IT・AIを徹底的に活用し、業務プロセスの非効率性を排除します。

3. 地域共生: M&Aや異業種多角化を通じて地域内での影響力を拡大し、終活サポート事業で自治体や介護施設と連携する「地域包括型モデル」を構築します。

2026年、私たちは「変化を待つ側」ではなく、「創る側」となって、この再構築の時代の先陣を切る必要があります。

小泉 悟志

小泉 悟志

エンディング総研代表・中小企業診断士

1969年生まれ。銀行勤務後、ベンチャー企業の取締役を数社経験。㈱エポックジャパン(現㈱家族葬のファミーユ)取締役を退任後、葬儀業界専門コンサルタントとして独立。施行件数のアップ、プランの見直しによる施行単価の改善などによる売上げ拡大を強みとする。近年は、葬儀社のM&A支援も多数手がける。

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